tengan さんの家計簿日誌
2020-05-11
「は?…それは誠か、壬三郎?」
「はっ…さようでございます。
信継様はやっと心を寄せるが見つかったと言われ、毎晩足しげく”離れ”に通っておられるようです…
昨日も、その女子と遠乗りをした先で敵襲にあったらしくーー
ご無事ですが、夕方からの嵐で…明日早朝まで一晩帰らないと牙蔵から報告が」
「さっぱりわからぬ…どういうことだ?長谷部」
「はっ…某にもさっぱり…
仁丸様は”寵姫”と毎晩お過ごしのはずですが…今晩は”寵姫”が外出しているようで…
…そんなことはあり得ないのですが…
”離れ”にいない”寵姫”に、ひどく心を痛めておられます。
何やら牙蔵が説明はしておったようですが…」
高島の殿、高島信八は首を傾げた。
”女嫌い”なのかとまで心配した嫡男の信継が、三鷹の侍女を所望したのが数日前。
それは喜ばしいことと、壬三郎を通じて、当然許可をした。
信継はあの晩、後宮に行ったと聞いている。
そして、同じ日。
元服してすぐの仁丸が、高島初の”寵姫”を得たと仁丸の教育係である長谷部から報告があった。
相手の女子は後宮の女子の中の1人だろうと思っていた。
今使われている中庭の”離れ”は一つ。
これは女中頭から報告を受けている。
それなのに、噂によると、最近足しげく、信継が”離れ”に通っているーー?
仁丸も当然、毎晩”離れ”で”寵姫”と過ごしている…。
仁丸の”寵姫”へーー仁丸の父として即日”離れ”に贈り物を届けさせた。
いつか会いたいと思っていた。
後宮の女子の顔は大体把握している。
全て、信八が謁見してから後宮に入らせるからだ。
可愛い仁丸が、どの女子を選んだのか、見てみたいと思っていた。
高島での初めての”寵姫”だ。
同じ日、信八自身も、やっと得た”三鷹の姫”の竹に溺れて、全てが後回しになっていたのだ。”同じ日”ーーー?
信八はハッと気づく。
ーー同じ女子、なのか…?
足しげく通う、信継と、仁丸。
1つしか使っていないという”離れ”
信継と女子が遠乗りに出てーー
今晩はいないという、仁丸の寵姫ーー
そう考えると、全てが符合する。
…間違いない。
どういうことかはわからないが、息子たちが、同じ女子を…好いたと言うのか…
高島家の息子2人を同時に手練手管にかけるとは…
そんなことをしそうな女子が後宮にいただろうか?
…それは、いかほどの女子なのかーー
ゴクンと殿の信八の喉が興味に鳴る。
「…壬三郎。
信継が戻ったら、女子を連れてワシの部屋に挨拶に来るように言え」
「はっ…承知しました」
「…会うのが楽しみだな」
ーーもし、同じ女子なら。
信八は思う。
当然、信継が優先だ。
あれは、何と言っても高島の嫡男で、適齢期だ。
あの、なかなか女子を気に入らない信継のこと。
これを逃すと次はいつになるかわからない。
…仁丸は可愛い息子だが、まだ若い。
いくらでも、次がある。
それにしてもーー信八のカラダが熱くなる。
同時期の女子のは、ここ、高島でも前代未聞だ。
自分が竹のカラダに溺れているうちに、面白いことになっていた。
信八は家臣を置いて、襖を開けて奥の間に入る。
そこには褥に横たわる竹がいた。