tengan

tengan さんの家計簿日誌

2021-07-19

修平さんとの関係を

修平さんとの関係を誤解はされたくないけれど、ヤキモチを妬いて貰えるのはくすぐったくて嬉しかった。

 

次に修平さんから電話がきたのは、二日後だった。

 

『お祖母さんの最後の遺言の公開立会いに、楽の名前が挙がってるんだ』

 

「え?」

 

『お祖母さんが指名した全員が揃わないと、公開されないことになっていて』

 

「そんな……

 

私は、いつものようにダイニングからこちらを見ている悠久を見た。

 

彼は、困り顔の私を見て、どうしたのかと伺っている。

 

『楽。 悠久がダイニングから移動し、私の隣に腰を下ろす。

 

私は小さく頷いた。

 

「おばあちゃんの遺言は、亡くなった後のおばあちゃんの誕生日に公開されることになっているの。三回に分けて。その最後の公開が来週なんだけど、私も立会い人に名前が挙がっているらしくて」

 

……それは、楽にも財産が遺されているってこと?」

 

「わからない。修平さんの妻としてかもしれないけど、これまでの二回とも私は指名されていなかったし……

 

ただ、聞いたところでは、これまでの二回で公開された遺言は、会社絡みのものだった。社内での役職だったり、株の分配だったり。

 

それらは、たとえ私と修平さんが離婚していなくても、私にはおよそ関係のないこと。

 

けれど、今回は違う。

 

おばあちゃんとの思い出の家が誰の手に渡されるのかが明らかになるはず。

 

修平さんは、おばあちゃんが亡くなる前から、いずれあの家で暮らしたいと言っていた。

 

古い家ではあるけれど、手入れはされているし、必要に応じてリフォームもされているから、設備は最新だ。

 

それに、広い日本庭園がある。

 

修平さんは庭の眺めを気に入っていた。

 

「行きたい?」

 

膝の上で組んだ私の手に、悠久の手が重なる。

 

私は首を回して彼を見た。

 

悠久の表情からは、私に行って欲しくないとか、行ってもいいんじゃないかとか、そういう感情は読み取れない。

 

だから、私は悠久の望む答えではなく、自分の想いを口にするしかなかった。

 

「わからない」

 

「わからない?」

 

ゆっくりと頷く。

 

「行きたいか行きたくないか、と聞かれれば行きたくない。修平さんのご両親と会うのは気まずいし、東京に行って萌花やお父さんに見つかったらと思うと怖い」

 

……だけど?」と、私の迷いを汲み取るように、悠久が先を促した。

 

「だけど、おばあちゃんが私を指名した理由は知りたい。ただ、財産分与の為だけじゃない気がするから。私が行かないと、おばあちゃんの家は誰にも相続されないままだし、あの家を欲しがっている修平さんに申し訳ないから」

 

「家?」

 

「うん」と、私は大きく頷いた。

 

「修平さんにとってのおばあちゃんの家は、悠久にとっての間宮の家と同じなの。修平さんの思い出の場所で、安らげる場所。だから、あの家はきっと修平さんに遺されていると思うから、早く相続して、またあの家で暮らせるようにしてあげたい」

 

「そっか」

 

悠久はそう言って微笑むと、私の身体を抱き寄せた。

 

私は、そうされると当然のように、彼の肩に顔を摺り寄せ、ほうっと安堵の息を吐く。

 

「東京に行こうか」

 

悠久ならそう言ってくれるような気はしていた。けれど、いざそう言われると、考えるより先に気持ちが零れた。

 

……だめ」

 

「え?」

 

「悠久は、だめ」

 

ふっと悠久の弾む吐息が耳をくすぐる。

 

「なんで?」

 

「見つかって連れ戻されたらどうするの?」

 

「それは楽も同じだろ?」

「私は――

 

――修平さんが守ってくれる?」

 

……

 

そう言おうと思ったわけではないけれど、気持ちのどこかにそんな考えがあったのだと思う。

 

見透かされたようで、私は口ごもった。

 

「他の男に守られてんなよ」

 

彼の指に顎をすくわれ、上を向くと唇が塞がれた。

 

軽く触れて、離れて、また触れた。

 

「一人で他の男に会いに行かせるわけ、ないだろ」

 

腰と後頭部を引き寄せられ、息もつけないほど深いキスを受け入れる。彼の首に腕を回すと、そのままソファに押し倒された。

 

「逃げて隠れてるだけじゃ何も変わらないことはわかってるんだ」

 

唇同士の僅かな隙間から、悠久は呟いた。

 

「このままじゃダメなことは、わかってるんだ」

 

眉根を寄せてそう吐き出す彼の唇を食む。

 

下唇を咥えて軽く吸うと、私の太腿に彼の興奮を感じた。

 

「一緒に行こう。そして、一緒に帰って来よう」

 

膝を立て、彼の興奮に触れ、膝頭で擦るように揺らす。

 

「楽?」

 

「なに?」

 

……いや――っ!」

 

上半身を起こして自ら彼に口づけながら、手を伸ばした。スウェットを押し上げる彼の熱は、触れると更にその存在感を強調した。

 

持ち上げるように下から彼の形に指を這わせ、ゆっくりとなぞる。

 

悠久が呼吸を忘れたのがわかった。

 

「ら……くっ」

 

いつも求められるばかりで、彼の愛撫に翻弄され、喘がされるだけ。

 

私も求めていると、知って欲しかった。

 

 

与えられる快感を、彼にも与えたい。

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